「この町に僕しかいないんだろうな」

自分のセクシュアリティがゲイであることをはっきりと意識したのは、中学校の男性教師を好きになった14歳のとき。男性が好きだということには小さいころから気づいていたのですが、周りにゲイがいない環境だったので、それまで具体的に意識したことはありませんでした。

「たぶん男が好きな男なんて、この町に僕しかいないんだろうな」というような孤独感は常にありましたが、たまたま町も学校も風通しがよかったため、カミングアウトはしなかったものの、セクシュアリティを悲観することもなく過ごしていたのです。

当時の僕の頭を悩ませていたのは、お金のことでした。母は高校在学中に姉を身ごもったため、中卒となり学歴コンプレックスが強かった。そんな母に「中学を卒業したら働いて、家計を支えろ」と言われていたのです。

結局「お金は私が出すから高校に行け」と言ってくれた姉の後押しもあって進学することになったものの、「高校に行くなら、家にお金を入れるように」と母から提示された金額は、高校1年で月4万円、2年生からは5万円、夏休みには11万円でした。

僕が高校に入学したころ、姉はすでに町を出ていましたが、仕送りは続けてくれていました。僕も入学と同時にアルバイトを始めましたが、田舎の高校生のバイト代なんてたかが知れています。初の給料は3万円に満たない金額でしたが、当時の僕にとってはものすごく大金に思えて、好きな本が買えると胸を弾ませていたのです。

でも母は、僕から2万5000円を取ると、「来月からもうちょい、ちゃんと働き。高校を卒業したら、姉ちゃんみたいに仕送りするんやで。あんたは男やから、毎月13万くらい入れなあかんで。せんかったら親不孝や」と一言。

母ちゃんをいつまで支えなければならないのか、僕の自由は母ちゃんが亡くなるまで訪れないんだろうか。家を出て母から離れよう、そこから始めよう。いつか大学にも行ってみたい。そのためにはお金を貯めなければ、と焦燥感にかられたのを覚えています。