もちぎ『あたいと他の愛』(文藝春秋)より

お金を貯めるために16歳で売春に踏みきって

稼ぐ手段として、なぜゲイの売春を選んだかというと、姉が置いていったマンガの、女子高生が男性に体を売って多額の現金を手にするというシーンを思い出したから、というだけで深い理由はありません。

初めての売春は16歳のとき。迷いはありましたが、18歳と年齢を偽り、バイトを終えた深夜に指定された隣町の駐車場に向かい、5000円で買われました。「お金のためや」と割り切っていましたが、毎日少しずつ心が死んでいくようで……。学校の勉強をすることで心の均衡を保っていたような気がします。

『あたいと他の愛』もちぎ・著(文藝春秋)

そんな日々を過ごしていたある日、お客さんから、東京にある新宿二丁目のゲイタウンについて教えてもらったことがありました。いつかそこに行きたい。子どもを買うような大人ではなく、ちゃんとしたゲイの人に会いたい。仲間に会いたい。そういう思いが募るようになりました。

また同じころ、別のお客さんから「毎月そんなに家にお金入れてたら残らへんし、普通、そんな家ないよ」と言われて。徐々に「あ、うちは普通やないんや」と気づくようにもなりました。

売春で稼いだお金は、姉が置いていった原付のシートの中に隠して貯めていたのですが、自分のものとして貯まっていくことがすごく嬉しかった。正直に言うと、30万円ぐらい貯まったときに、就職するために運転免許を取る費用にしようかと考えたこともありました。まだ心のどこかで、家を出ることに躊躇いがあったのだと思います。

だからあの日、ゲイであること、売春をしていることが母にバレたのは結果的によかった。高校卒業の直前で家を出ることになってしまったけれど、それがなかったら、今でもあの家にいたかもしれませんから。