脳の密度が高いほど「予備脳」の力が強い
それでは、予備脳はいかにしてつくられるのかというと、参考になるのは、先ほどの病変があったのに症状が現れなかったシスターの生活です。
そのシスターが20代の頃に書いた自己紹介文は、言葉が豊かで、たくさんのアイデアや考えが詰まっていたといいます。若い頃から考えたり、学んだりすることが好きだったのでしょう。
修道院に入ってからも読書を楽しみ、日記を書き続けていたそうです。
ある研究者は、予備脳を「脳の貯金」と言っていますが、若い頃からの脳脳の密度が高いほど「予備脳」の力が強いを使うことの積み重ねが予備脳をつくるのは間違いなさそうです。
修道院での生活も予備脳に大きく影響したと考えられています。
編み物をしたり、仲間と奉仕活動をしたり、野球の試合を楽しく観戦したり、共同生活で孤立することなくいつも誰かとおしゃべりをしたりなど、脳を使う機会が多かったと思われます。
ここまでの話でお気づきかもしれませんが、予備脳は、先天的というより、後天的な影響が大きい能力だということです。
予備脳に影響したかどうかはわかりませんが、ストレスが少なく、決まった時間に起きて、きちんとご飯を食べて、規則正しい毎日を送るという修道院での生活は、脳の老化を早めることはなかったのでしょう。
シスターの生活を参考にすると、脳をたくさん使ってきた人ほど予備脳が強くなるということは言えると思います。
つまり、脳の密度が高いほど予備脳が強いのではないかと考えています。脳の密度が高いとは、脳の中にある神経回路が縦横無尽に張り巡らされているイメージです。
先ほど、ひとつの道がふさがっても、別の道が使えるとご説明しました。しかし、その別の道がふさがったらやっぱり目的は達成できません。
では、道が3つ4つ、5つとあればどうでしょうか。何かあってもバックアップが可能ですよね。
つまり、神経回路という道ができるだけたくさんあるほうが、バックアップ機能が働きやすくなるというわけです。
脳にある神経細胞は、ピーク時には約860億個もあります。その神経細胞が縦横無尽につくるネットワーク(神経回路)は壮大なスケールです。
加齢とともに、その細胞や回路は少なくなりますが、多少減ったところで、もともとのスケールを考えるとカバーできます。
それができることを証明したのが、アルツハイマー病の病変がありながら、症状が現れなかったシスターだと思っています。
そのためには、たくさん脳を使って回路を密にすることです。