中井さんはその年の日本アカデミー賞新人俳優賞に輝いた。次の出演作品は、その『連合艦隊』で海軍司令長官・山本五十六役を演じた小林桂樹との『父と子』。
――ロードムービーみたいに親子が旅して、八戸から福島まで下りてくる映画でしたけど、小林さんが「息子の役はあの子にしてくれ」と推薦してくださったわりには、貶され続け……。35日間くらい、毎日ですよ。
でも仕事が終わるとご飯食べに連れてってくれる。するとウニとか見たこともない贅沢なものをいろいろ食べさせていただくんですが、そのたびに「これから仕事どうすんのよ? わりと俺、コネあるよ」って。当時は大学三年生。将来役者を続けていくか迷っているように見えたんだと思います。実際に悩んではいましたが……。
「君のお父さんとかさ俺とかはさ、ここ(顔)がいいからいけるけど(笑)。君は就職したほうがいいよ」って小林さんがおっしゃるわけ。最後のほうは具体的になって、じゃあどこそこの広告代理店でお願いします、なんて。
寒い東北ロケもいよいよ終わりの日に、僕が衣装部屋で、母が持たせてくれたラクダの股引き穿いてたら、小林さん「おいおいおい、若いのにラクダの股引きかよ」って。「これ、親父のなんです」って言ったら小林さんの動きがパッと止まって、ぷいと出て行った。
その晩の小林さん、「俺さ、佐田さんには一度しか会ってないけど、『小林さんはお子さんのために貯蓄してます? 僕はこれから何があるかわからないから、貯蓄をしようと思うんです』って。亡くなるちょっと前だった。
あのラクダの股引きを見た時、もう嗚咽が止まらないほど涙が出たよ。お前にはぜひ役者をやってもらいたい。これからは松田優作や萩原健一のようなアウトローが主軸になる時代かもしれないけど、お前は王道を歩む俳優になってもらいたい」って。