病気さえも吸収し芝居に変えて
いいお話。素晴らしい人との出会いって、みんな転機になりますね。
――本当にそうだと思います。それで一人に絞るとすれば、『風のガーデン』での緒形拳さんとの話ですかね。僕、前に緒形さんと何かでご一緒して、ちょっとぶつかったことがあったんです。
それで、『風のガーデン』の時、僕の父親役に何人か名前が挙がっていて、意見を求められた時に、僕は父親から勘当されている役だったので(笑)、あえて緒形さんでお願いします、って言った。
最初の本読みにいらした時、あれ? ずいぶんお痩せになったな、と思ったけど、月に一度お会いするたびに、さらに痩せていかれるんですよ。僕も末期がんで亡くなる役なのでキャベツダイエットをして九キロ落としたんですが、それどころじゃない痩せ方。脚本家の倉本聰さんやいろんな人に訊いてみても、本当のことは誰も知らないんです。
そしていよいよ最終シーン。和解した父親に看取られて亡くなるのですが、そのために僕は3日間、食べず寝ず。だからベッドに横たわるとすぐうとうとしてしまう。でも台詞も結構あったし、常に靄がかかってる状態の中でどうにか終わって、そしたら緒形さんがヨロヨロと僕から離れて、ポーンと丸椅子に腰をおろした。
するとこのドラマのチーフディレクターが、バーッと走って来て緒形さんに抱きついたんです。あれ? 俺じゃないんだ、って思って。(笑)
9月30日、ドラマの記者発表の時、最後に緒形さんがすっと立ち、「俺はいい仕事ができた。いいドラマなんだ。中井がいいんだよ」と大勢の記者の前で言ってくれて、びっくりしました。
そのあとの打ち上げは、緒形さんが早めに帰られるようだったので、僕もパッと立って後を追いました。店を出る寸前、ふっと緒形さんは立ち止まり、振り返られたんです。僕が「ハイ?」と訊いたら、「イヤ、じゃあまたな」。これが緒形さんとの最後のやりとりになりました。
あとで聞くと、監督だけはクランクインの時からご病気のことは聞いていて、「完投できるかどうかわからないけど俺はやりたい」って緒形さんが言ってたそうなんです。