(イラスト:遠藤舞)
ジェーン・スーさんが『婦人公論』に連載中のエッセイを配信。今回は「権力と富の先」。世界中のエリート層が疑惑の対象となったエプスタイン・ファイル。富と権力に溺れた人々の行きつく先を思い、スーさんは――。

権力と富の先

米国とイスラエルによるイラン攻撃が始まって、まんまと人の口に上らなくなった話題がある。エプスタイン・ファイルだ。

2019年に獄中死した米国の資産家ジェフリー・エプスタイン氏の未成年者性的人身取引事件をめぐり、米司法当局や裁判所が開示した大量の捜査・裁判記録のこと。捜査資料の総計は、約600万ページに上ると言われており、そのうち約半分が26年初頭までに公開された。エプスタイン氏が所有するカリブ海に浮かぶ島で未成年者を組織的に性的売買していた疑いがあり、資料画像に写る大勢の若い女性の顔が塗りつぶされているのは、彼女たちが性的被害者と推測されるからだ。おぞましい事件である。

エプスタイン氏の交友関係リストには、トランプ大統領やクリントン元大統領といった政界人、ウディ・アレン監督などのエンターテインメント業界人、ビル・ゲイツ氏やイーロン・マスク氏などIT業界の重要人物、イギリス王室のメンバーなど特権階級に属する人々ばかりが名を連ねる。まだ不明点が多いものの、資料にあるEメールを読む限り、未成年者に対する加害行為を、悦楽のために犯していた人々が存在したのは否定できない。

無論、エリート層の度を越した腐敗にアメリカ社会は憤怒した。日本人の名前も何度も挙がっており、私たちにとっても他人事ではなくなってしまった。しかし戦争が始まり、この話題は一気に消え失せた。疑惑の目を向けられていた連中にとっては渡りに船だろう。