「こんにちは」
私が声を掛けると慌てて立ち上がった。この前、小さな男の子を追いかけていた人だ。
「あっ、いらっしゃいませ。あれ、霧さん、店にいてはりませんか?」
「今、お客様の相手をされていて。奥で待つようにと」
「ああ、そうなんですか。……じゃ、そこに掛けてお待ちください。なにか冷たい物を持って来ます」
縁側を指さしたので慌てて遠慮した。
「お気になさらず。お仕事中にお邪魔してすみません」
「いえいえ」
女性は手袋と帽子を脱いで母屋に上がると部屋の奥に消えた。私は縁側に腰を下ろした。軒が深いので陽は当たらなかった。
じきに女性が戻ってきた。長い髪を三つ編みにしてまとめている。化粧は眉を描いただけだが、眼が大きくて細身の美人だった。
私の横に麦茶のグラスの載った盆を置いた。
「来て下さってありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる。剣人と同じだ。この蔵の人たちにはやたらと歓迎される。
「なんか最近、霧さんがちょっと嬉しそうで。なんでやろう、って剣人に訊いたら、山際さんと知り合ってから、って。……あ、すみません。あたし、剣人の妻で瀬良です。一家で住み込みで働いてるんです。剣人は今、道の駅に配達に行ってます」
話し方がはきはきしていて、いかにも客あしらいが上手そうだ。
