「ちょっと出たいから店、頼めるかな」
「はい。今、出ます」
さっと立ち上がると、こちらを振り向いて唇の前に指を立てた。内緒、のサインだ。私はこっそりうなずいた。
「お待たせしました」
霧が生真面目に微笑んだ。ほんのすこし寂しさが減っているのがわかった。そのことが嬉しくて哀しくてまた胸が痛くなった。さっき瀬良はこう言っていた。霧はいろいろあった人だ、と。
二人で並んで日傘を差して寺内町を歩いた。前回、霧に交際を申し込まれてから、はじめてのデートだ。正直言って、この歳での交際などなにをしていいのかわからない。
「白鳥さんはここの生まれではないんですか? 言葉があまり大阪弁ではないような」
「僕は高校からずっと東京です。バドミントンをやっていたんです。ダブルスでインターハイにも出たことがあるんですよ」
いたずらっぽく霧が微笑んだ。でも、その努力は失敗したように思えた。私は気付かないふりをした。
「インターハイ? 凄いんですね」
「結構、真面目にやってたんです。……それで、ペアを組んでた男の妹と結婚しました。彼女を幸せにしてあげられると思ったんですが……」
そこで霧は言葉を濁した。「幸せにしてあげられる」という表現は、霧にしては不自然な物言いに聞こえた。私はふいにやりきれなくなった。霧がごまかしを身につけていることが許せないと感じたのだ。
「『彼女と幸せになる』ではなく?」
はっと霧が私を見た。
