いしいしんじさんの回答

ともに暮らす道を選んだとき、夫は、あなたのなかに「よいもの」をみた。このひとのそばで過ごせるのは心地よいだろうと、理屈でなく直感した。

あなたは「よいもの」を彼に分け与えた。彼もまた「よいもの」を、自分からくりぬき、あなたと分かち合った。それはおそらく、まだつづいている。

自信がない、とあなたはいう。夫に見せるのが恥ずかしいほどだと。夫はどう感じているだろう。あなたは夫をもっと信頼してよいのではないか。

あなたの「よいもの」はいま、外面という殻に覆われ、おしこめられてしまっている。殻をほどき、手を重ね合い、輪郭を溶け合わせる。あなたのかたちは、夫のかたちと、刻一刻と混ざってゆく。

つながったふたりには、外面上の殻はもう存在しない。「よいもの」と「よいもの」を、ていねいに重ね合わせ、ふくらませる。

たとえ自分が信じられなくても、相手のこころに任せることで、あなたは、ひりついた外面を、ふくよかな内面でくるみこむことができる。ひとりだと、難しいかもしれない。けれどもあなたには、いのちを分け合える、もうひとりがそばにいる。それだけで、自らの生を誇ってよいと思う。

※本稿は、『人生不案内』(新潮社)の一部を再編集したものです。

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