私ってば……
にもかかわらず、私は「もう、ウンザリ」という顔をした。咄嗟の反応に自分でも戸惑った。人通りの多い日中、身の危険はない。ナンパには応じずとも、二言三言会話を交わすことはできたし、苦笑してスタスタと歩き去ることもできたはずだ。なのに、私は「もう、ナンパなんて」という顔をしたのだ。
「元気じゃなさそうだね」と彼は言い、去っていった。生温かい後悔が、じんわりと私の心を湿らせる。ナンパに応えなかったからではない。そんな過去はひとつもないのに、まるでナンパされまくって生きてきた女のような態度を自分が取ったからだ。
「声をかけてくる男なんて飽き飽き」という女でありたかった欲望が、自分に存在したことにも驚いた。彼はひとりでフラフラ歩いている女に目を付け、軽い気持ちで声をかけただけ。押しつけがましさなど微塵もなかったのに、私が彼をグイと引き込み、歴史修正に付き合わせてしまった。
反射的に別の世界線にいるモテモテの私を演じ、見ず知らずの人をそれに付き合わせた恥ずかしさで口の中が苦くなる。不測の事態にこそ、人の本性は表れるものだ。私ってば、本当に浅ましい。
もう顔も忘れてしまったし、二度と会うことはないだろうが、本当は謝りたい。あなたをちゃんと、ひとりの人間として扱わなかった非礼を。
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きのうまでの「普通」を急にアップデートするのは難しいし、ポンコツなわれわれはどうしたって失敗もする。変わらぬ偏見にゲンナリすることも、無力感にさいなまれる夜もあるけれど、「まあ、いいか」と思える強さも身についた。明日の私に勇気をくれる、ごほうびエッセイ。






