庭園へ出た梅木がこちらを振り返り、建物の外壁を指さした。庇の下、まるで本物の鳥の巣のようなさりげない位置に、百貨店入り口の銅像によく似た青銅製の雀の巣の像が設置されている。巣の高さは大人の胸ぐらいで、中には二羽の親鳥の姿が見えた。片方は巣の中央に座り、もう一方は巣の縁に立って周囲を見回している。巣の縁に立っている雀は、心なしかくちばしの先が丸い。

 座った親鳥の腹の下には小さな卵が三つ、ちんまりと収まっていた。『令和一年 京都本店より移設 心得像』。巣の隣には、そう彫り込まれた名刺大の金属製のプレートがかかっていた。

「ああ、もともと京都本店にあった銅像なんだ。こちらは、三羽の子雀がまだ卵だね」

 京都本店の雀の巣の真下には、金属製の黒いチェストが置かれていた。チェストを開くと予想通り、次のページが現れる。

 焼夷弾をかいくぐって雀の一家が屋上に辿りつくと、そこは戦後の平和な世界に変わっていた。親子連れで賑わう過去の屋上動物園で、母親雀は二番目の坊やがポニーの背中の白い毛に埋もれているのを見つけた。泣いているのをあやしてくれていたようだ。母親雀はポニーに礼を伝え、坊やを籠に回収する。首に竹籠を提げた母親雀と、困り顔の父親雀が並んで飛んでいるイラストが描かれていた。「時代があやふやで、まるで夢の中にいるみたいだ」。父親雀がこぼし、一体誰の夢の中だろう、という謎が発生する。「とにかく未来を探そう」と再び一家は飛び立った。

 雀の家族を追って、三人は館内の散策を続けた。謎を解く。時代が進む。輝かしい時代は数度のはばたきで流れ去り、バブル崩壊、平成不況と、暗雲をかき分けて雀の一家は飛んでいく。

「うん、仕事で悩んで、加々見先生に相談に行ったんだ」

「学習塾も大変だね」

「梅木くんは外資系でしょう? 働きやすい?」

「情報漏洩を防ぐって名目で、AIが従業員をモニタリングしているんだ。三分手を止めると、『生産性が落ちています』ってアラートが鳴る。処理速度が上がるほど仕事が押し寄せて、全然ブレーキを踏めない。ときどき叫びそうになるよ」

「ディストピアじゃん」