当時はもちろんインターネットもなく、最初は400字詰めの原稿用紙に手書きだったのが、東芝のルポという画期的なワープロができたので、それと合わせてフロッピーディスクを使って、原稿を保存していた。

それまではお金を払って原稿を紙にコピーして、万が一の紛失のために対応していたのである。ファクシミリもとても大きくて、大枚を払って買った記憶がある。それで私はいちいち原稿を届けにいったり、郵送したりという手間がはぶけた。

そのファクシミリも性能が悪く、文字が鮮明に表示されなかったりする。

当時は文字がある表面を下にして送信するシステムだった。物書きの場合は、原稿の表裏を間違えて送信しても、全面が白いということはありえないので、編集者から、

「白紙が送られてきました。表裏を間違えているようなので送り直してください」

と部屋の固定電話にかかってくる。私も何度かやらかしたことがあった。ファクシミリは電話と一体化しているので、電話中は送信できない現実もあった。

文字の場合はそれで済むが、あるイラストレーターの方から聞いた話だが、太字の油性ペンでイラストを描いて送った。ところが相手が受け取ったのは、ところどころに黒い点が飛んだイラストだった。編集者は、これは何か意味があるのだろうかとしばし考えてみたがわからず、

「この、ところどころにある点はどういう意味なのでしょうか」

と真面目に聞いてきたという。そのときはじめて、彼は表と裏を逆に送信してしまったとわかったという。編集者には油性ペンが裏写りした側が届いてしまったのだった。

「イラストは困りますよね」

とお互いにうなずき合ったのだが、まだそんなことがたくさんあった。