記録紙がロールだと、まだカットする技術がなかったので、長い原稿の場合、延々と帯状の紙が出てきて、近くにいる人が、それを巻いたりしなくてはならなかったとも聞いた。

現代の指一本でパソコンやスマホから送信できる世の中になるとは、想像もしていなかった。

今から思えばアナログな方法で原稿を書き、送っていた。

私はそういう被害に遭ったことはないが、編集者が原稿を受け取り、それを鞄に入れたまま帰宅途中に飲みに行き、帰宅する電車のなかで網棚に鞄をのせて寝てしまい、起きてみたら、鞄が盗まれていて、大騒動になったという話も聞いた。

他のものは戻ってこなくていいから、原稿だけ戻して欲しいと訴えていたそうだが、鞄は出てこなかった。それから会社からは、原稿を受け取った日は、いったん会社にそれを置いてから帰宅するか、飲みにいってはいけないというお達しが出たらしい。

その彼が無くした原稿は、著者が完全原稿に近い下書きを保存していたので、それに手を加えて渡されたという。どちらの側に立っても、どきどきする出来事だっただろう。世の中にそれしかない、手書きの原稿はつくづく怖いと思った話だった。

ワープロはスイッチを切っても、記憶装置が働くので、書いたものが残っている。私は壊れたときのことを考えて、フロッピーディスクで保存していた。

こういうところは心配性なので、二重、三重にガードしていた。フロッピーディスクを発明してくれた人には感謝しかない。