大屋根リングに上ってみた。上は上下二段の通路になっていて、ぐるりと一周すれば二キロ以上あるらしい。

「高いところは苦手と言ってましたが」

「ああ。周囲が開けているなら大丈夫」

 笑って誤魔化しながら、風が強いので一旦傘を閉じた。そこでふっと思い出した。

「入場ゲートで、あたりを見てなにか変な顔をしてなかったか?」

「え? ええ、そうですね。ちょっと……」

「ちょっと?」

「ええ、日傘の人が多くて……」

 木綿子が困ったような顔をした。わけがわからない。気になったので重ねて訊ねた。

「日傘が多かったら、なにかいけないのか」

 すると木綿子がはっとして口を閉ざし、ためらいがちに、でも悔しそうに答えた。

「私にとって、男の日傘と言えば霧さんなんです。霧さん以外の男の人が日傘を差してたら、なんとなく腹が立って」

 一瞬、わけがわからずぽかんとした。それからようやく理解した。

「それはとんでもないわがままだ」

 思わず噴き出してしまった。すると、木綿子も困った顔で笑った。

「……ですよね。でも、そう感じてしまったんです」

 木綿子の怒りが嬉しかった。木綿子が見ているのは俺だけなのだ。

「だったら日傘、差した方がいいかな?」

「いえ。風が強いし、傘を差してない霧さんもいい感じです」

 なんだこの会話は。今どき、中学生でもこんなことは言わないだろう。自分でも恥ずかしくなってくる。でも、楽しい。心地よい。こんな会話が嬉しい。

 俺は照れ隠しに空を見上げた。青い青い七月の空だ。まだ日没には時間があって、大屋根リングの上からは三百六十度の青が広がっている。

「霧さん。こっち向いてください」

 木綿子がスマホを向けた。すごい。本当に高校生みたいだ。いや、今の高校生なら自撮りか? 二人で肩を組んで、スマホを持った手を突き出して撮る。俺たちもやってみようか。

「撮りますよ、はい、チーズ」

 昭和の台詞だ。俺はおかしくなって、つい笑い出してしまった。その様子を何枚も撮られた。

「じゃあ、次は木綿子さんも」

 木綿子がはにかみながらこちらを見る。

「はい、チーズ」

 やはり昭和の台詞でボタンを押す。そして、今になって気付く。お互い、写真を撮るのははじめてだ。セックスをして結婚も決めてから、写真を撮る。順番がおかしいだろう。