自分を取り戻すのは意外と簡単だった
20代半ば過ぎから私の人生はさらに複雑化していきます。大きな要因となったのは恋愛。当時、交際していた男性は束縛が酷くて、私の帰りを我が家の前で待っているわ、人の携帯は勝手に見るわ、GPSをつけるわで、面倒臭いのに引っかかっちゃったなぁと思っていました。
しかも、「僕がいないと何もできないくせに」などと言って女を見下して優越感に浸るタイプ。私もさんざん卑下されましたが、図星だったので言い返すことができなかった。経済的に彼に縋(すが)っていたのも事実でした。男の顔色を伺うのはイヤだ、もう辟易だと思っても別れる決意さえできない。なぜかといえば、なんだかんだ言いながらも自力で稼ぐよりラクだったからです。
こんな女にいい男がつくわけがありません。素敵な男性に出会いたいのに出会えないと悩んでいるアラサー女性が多いようですが、本気で素敵な男性に出会いたいのであれば、まずは自分が素敵になることだと声を大にしてお伝えしたいです。
結局のところ、私の目を覚ましてくれたのは交際して2年ほど経過した頃に言われた「もし僕が浮気をしても、それは僕のせいではなく、君の価値が下がったせいだからね」という彼の言葉でした。もう限界だと思いました。それで金輪際会うまいと決め、彼から貰った高価なアクセサリーや化粧品などをすべて彼の家に置き去りにして自宅へ帰ることにしたのです。
お化粧品がないと困ると未練がましく思いたくなかったけれど、お金がなかったので、たまたま家に来ていた祖母に2千円借りてドラッグストアへ向かいました。プチプラコスメを買いそろえて、百円ショップで買ったポーチに入れてみました。すると「これで大丈夫。明日からも困ることはない」と思えて、執着心がスーッと消え去っていくのを感じました。「なんだ、自分を取り戻すのはこんなに簡単なことだったのか」と拍子抜けしたのを覚えています。
彼と別れたのを時と同じくして、私は彼に対する面当て半分、自分に自信を備えたいという願望半分で、ゲーム内のオーディションを受けるというトリッキーな行動に出ました。そして、28歳でオーディションに合格し、出演したことをきっかけに芸能界に進むことになるのです。
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このような苦い経験の数々が私の武器となる日がくるなんて夢にも思っていませんでした。人生相談の回答者として、今を生きるアラサー女性のみなさんの悩みをビシッと解決することはできないまでも、「なるほどこういう考え方もあるのか」という心の迷路から抜け出すためのヒントを提供したり、はたまた「壇蜜のような女でも何とかなったなら大丈夫そうだ」という希望を見出していただくことならできるかもしれません。世の中にこれほどまでにうれしいことがあるでしょうか。
※本稿は、壇蜜『三十路女は分が悪い』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。