歌も踊りも未経験。何度も「やめたい」と思ったけれど

今でこそこうして「舞台が好き」と言っていますが、芸能界に入るまでは、劇場に足を運んだこともミュージカルを観たこともありませんでした。地元の博多で、幼い頃に1度だけ、キャラクターの着ぐるみが歌って踊る子ども向けのショーを観に祖父母に連れていってもらったことがあるだけです。幼い頃の将来の夢はパイロット。中学時代はテニス部の練習に明け暮れて、俳優になりたいと思ったことなんて1度もなかった。当然のことながら、お芝居の稽古をしたこともなければ、歌やダンスを習った経験もありません。

そんな僕がなぜ芸能界に入って、ミュージカル俳優として舞台に立つことになったのか。それは、大学を中退してしまったことが自分の中で負い目になっていた部分があるからかもしれません。

僕の家は大学に行けるような経済状況じゃなかったんです。でも、「みんな大学に行くんだから、自分もみんなと同じじゃなきゃイヤだ!」と、必死に勉強して奨学金を貰って、半ば無理やり進学して。卒業したら、頑張ってお金を稼いで家族を助けるぞと思っていたのですが家の経済状況は良くならなくて……。

「ミュージカル俳優として舞台に立つことになったのは、大学を中退してしまったことが負い目になったからかもしれない」

でもそれは誰かや何かを責められることじゃない。

その結果、僕は大学を中退し、地元でフリーターとして働くことにしました。それまで自分の肩書は「大学生」だったのに、ある日いきなり「フリーター」になったことで、自分が「何者でもない」存在になったように感じてしまって。収入も不安定だったし、将来に関しても不安だらけで。キャンパスライフを謳歌している友人たちを妬ましいと感じてしまっている自分もイヤだった。