そこからが本当の意味で試練の始まりでした。東京に出てくるときは、「芸能界に入れたら、すぐにお金持ちになれるかも。テレビに出るなら、サインとか考えなくちゃ!」なんて能天気なことを考えていたけれど、いざ舞台に立ってみたら、そんなに甘いところじゃないと思い知らされた。エンターテインメントの仕事の厳しさを全く分かっていませんでしたね。

特に、ミュージカルの世界は、子どもの頃からお芝居や声楽をきちんと勉強してきた方たちばかり。その中で、毎回、こてんぱんに打ちのめされながら舞台に立ち続け、10年たった今、ようやくここまで来られたという心境です。

「36歳にもなれば、すでに結婚して子どももいるだろうって、大学生の頃は思っていました」

もちろん、これまでに何度も「もう、やめたい」って思いましたよ。でも、僕の中では「舞台の仕事をやめる」イコール「俳優をやめる」ということだったから、ここでやめてまた空っぽの自分に戻ってしまうのは絶対にイヤだった。何度ヘコんでも「それでもやりたい」という気持ちも自分の中にはあったので、だったらその気持ちを信じて、前に進むしかない。何千人ものお客様の前で歌って、お芝居をして、楽しんでもらい、一緒に楽しんで、それを評価して頂いて、やり続けるしかない。

幸か不幸か、舞台の仕事は2年先、3年先まで予定が決まっていますから、今、やめたいと思っても、実際にやめられるのは数年先になります。

その間に、少しでも前に進んで行こうと。「やめたい」より「やりたい」気持ちを増やしていくほうが、自分にとっても皆さまに対しても、潔く生きられると思ったんです。