100歳を迎える今年は、先生の年になるはずだった

そしてもう一つ、私の人生を変えた経験があった。仕事の縁で出会った人と結婚することを、先生に突然報告したのだ。

先生は驚いていたけれどとても喜んでくれて、「まなほの結婚式でしっかリスピーチしないと」とはりきってリハビリに励んでくれた。また妊娠したことを伝えたときも喜んで、次第に大きくなるお腹によく話しかけてくれた。

子どもが苦手だと言っていた先生。そして、子どもが生まれたら育児で大変だから、仕事が続けられないと決めつけていた先生。私は早々と産後復帰し、息子を保育園へ預け、今まで通りフルで働いている。息子が生まれてから先生は、子どもの無垢さと純粋さ、無限にある可能性がとてもおもしろいようで、私たちの会話は息子のことばかりになった。

しかし、そんな息子の誕生後、世の中は一変する。新型コロナウイルスが猛威をふるいはじめたからだ。マスク着用必須、外出は控えるように、それでも感染者は増える一方で、見えない敵に全世界は翻弄される。

寂庵も法話や写経の会といった行事はすべて中止。来客も断った。静かになった寂庵で先生は執筆に励む。でも五つの連載を抱える先生は衰えていく体で、一日中しんどくて寝ていることも増えた。私たちスタッフと会話するくらいで、外からの刺激が全くなくなった。代り映えのない日々、それでも、時間は刻々と過ぎていく。生まれたばかりだった息子が2歳になった。

100歳の年を迎える今年は、先生の年になる。新しい本も出るし、100歳を記念して全集も出る、なんて先生と話していたのに。