真の正代ファンは地位よりも勝ってほしい

「地位」といえば、大関も落ちてはいけない大変な地位なのだが、貴景勝は怪我で4日目から休場、正代は13日目に前頭5枚目・阿武咲に負けて8敗となり、二人とも来場所カド番だ。

正代は14日目、9勝4敗の前頭6枚目・豊昇龍と対戦。軍配は正代にあがったが、正代の膝、豊昇龍の顔が同時に土についたようにテレビでも見え、物言いの末、取り直しとなった。人間は転んだ時、反射的に手を先について、顔を怪我しないようにするのが普通だが、相撲ではそれでは負けてしまうので、「顔を先につけ」と言われている。豊昇龍もそれをした。かなりのイケメン力士であっても、過去・現在ともに、顔から先に落ち、すりむいた傷を見せて、次の日も土俵に上がるのである。

取り直しの相撲で、右の額が血だらけで根性まるだしの豊昇龍を前に、負け越しの正代の気持ちはどうだったのだろうか。やはり、豊昇龍の気合に寄り切られてしまい、正代は負けて5勝9敗となった。今場所、正代の「大関の重責の悩み」のような発言を、アナウンサーが伝えているが、真の正代ファンは地位よりも勝ってほしいのだ。

14日目に勝ち越した新入幕の前頭15枚目・若元春がインタビューで「シンプルに嬉しいですね」と言っていたが、その言葉を借りれば、今場所も正代の照ノ富士との相撲を見られないのは「シンプルに悲しい」。

そして、千秋楽に絶対に勝って欲しい力士がいる。新入幕の前頭18枚目・王鵬だ。勝ち越しをかけた11日目の1月19日は祖父である昭和の大横綱・大鵬の命日だった。その日に勝ち越したかっただろうに、仕切りの時から緊張が見て取れ、十両の荒篤山に敗れ、その後、連敗して千秋楽に勝ち越しをかける。勝ち越しを前に、意識しすぎて勝てない幕内の先輩たちは、現在、過去ともにいる。8勝して幕内にとどまってほしい。

千秋楽、誰が優勝杯を手にするのか。照ノ富士の膝の状態にかかっている気がする。シンプルではなく複雑な気持ちで熱戦を期待したい。

12日目、正面解説の北の富士さんが、呼出が打つ拍子木の音を聞いて「きの音(ね)がいいね。我々がやったら ロクな音がでない」と言っていた。北の富士さんが親方として育てた第58代横綱・千代の富士の名前のある「土産物」の拍子木だが、 私が打っても千代の富士の相撲を思い出すような鋭い良い音がするので家宝にしている。(写真提供◎しろぼしさん)
 

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