筆者の関容子さん(右)と

楽屋風呂の湯船に浸かって

――そして第三の転機は、やはり平成28(2016)年の白鸚襲名発表だろうか。

 

そう、転機でしょうかね。でも、自分の中では全然、転機はないんですよね、元がノー天気なので(笑)。白鸚を襲名して、倅の染五郎に幸四郎の名を譲る、という決心をしたのはたった一日でしたからね。アッと思ったらパッと決める。アッパさんなんです。計画性がない、と家内はときどき文句を言いますけどね。

とにかく一日の舞台を終えて、楽屋風呂の湯船に浸かってぼやーっとする時間が好きですね。そこで霊界通信をする、という話を以前にもしたことがありましたね。そのころ、今日はうまくできなくてすみませんでした、ってご先祖さまに謝ると、「お前はまだうまいとか下手とか言ってる段階じゃない、とば口、とば口」って言われるんです。母方祖父の初代吉右衛門の声でしたね。

近ごろは中村屋のおじにも話しかけてみるんですが、あちらの世界ではまだ口がきけないんですって。言いたいけど言えないよ、って。修行が足りないらしいんですね。まぁ、見てきたような噓を言う、講釈師みたいではありますけど。(笑)

しかし今こうして振り返って考えてみると、夢が自分の人生だという気がします。もうすぐ『ラ・マンチャの男』が開幕しますけど、この作品から学んだことは、夢というのはただ夢見たり語り合うだけのものではなく、夢を実現させようとするその人の心意気だ、ということなんですね。

――白鸚さん、昔の染五郎時代に戻ったように爽やかで意気軒昂。これからもずっと演劇世界を牽引し続ける存在でいていただきたい。