汗かき、恥かき、手紙書き

この取材ノートには、自分の支えになる言葉も書き留めています。新聞を読んでいて「これだ!」と思った言葉、出会った人から聞いて心に残る言葉などを、ノートの後ろのページにメモしていたのが始まりで、一冊のノートの後半は「言葉ノート」になっています。

そこにはたとえば松任谷由実さんの言葉も書いてあります。ユーミンは、ある賞の贈呈式での挨拶で、こう語っていたのです。

「私の名前は消えても、歌だけが詠み人知らずとして残るのが理想だ」と。そんな気持ちで仕事をするのは素晴らしいことだと、感じ入りました。

こうして大切な言葉を書き留めておくことで、私自身の心の引き出しも少しずつ豊かになっていると思います。もっとも引き出しに入れっぱなしにしたまま、なかなか開けず、取り出せないことも多いのですが……。

書くという習慣でいえば、お世話になった方に手紙を書くことも心がけています。

「汗かき、恥かき、手紙書き」、私はこの言葉がとても好きなんです。テレビやラジオ、講演やイベントの仕事でも、終わった後にお礼状を書かないと終わった気がしませんね。テレビの仕事はスピーディーなので、番組の放送は必ず見て、見終わったらすぐに制作の方に感想をメールで送ります。

今は何でもメールで済ませる時代ですが、できるだけ手紙を書くことで自分の気持ちが伝わればいいなと思っています。

「汗かき、恥かき、手紙書き」が、私の変わらぬモットーです。

※本稿は、『調べて、伝えて、近づいて-思いを届けるレッスン』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。


調べて、伝えて、近づいて-思いを届けるレッスン』(著:増田明美/中公新書ラクレ)

マラソン・駅伝中継での、選手の人柄まで伝わる解説に定評がある増田明美さん。一度聞いたら忘れられない、あの「こまかすぎる」名解説はいかにして生まれるのか。相手との信頼関係の築き方、情報収集の極意、選手につけるニックネームに込めた思いまで――その舞台裏を初公開。さらには、20年以上続けている大阪芸術大学での講義や、朝ドラ『ひよっこ』のナレーション、『読売新聞』「人生案内」回答者など、幅広い仕事で培ったコミュニケーション術に迫る。