もし母が今回の個展を見たら

という話を先だって妹としていたら、「でも、私にはいつも『マリは絵が描けて羨ましい』と言ってたけど」と言う。「お金にならなくても絵で頑張って生きていくべきだと言っていた」そうだ。本当だとしたら、母は単なるつむじまがりである。

寝たきりになって3年が経とうとしているが、もし彼女が今回の個展を見たら果たしてどんな反応をしていただろうか。

私にはやはり「いやあねえ、こんな下手くそな絵を並べて、恥ずかしい」などと言いながら、戸惑い気味に目を逸らす母の姿しか思い浮かばない。


歩きながら考える』(著:ヤマザキマリ/中公新書ラクレ)

パンデミック下、日本に長期滞在することになった「旅する漫画家」ヤマザキマリ。思いがけなく移動の自由を奪われた日々の中で思索を重ね、様々な気づきや発見があった。「日本らしさ」とは何か? 倫理の異なる集団同士の争いを回避するためには? そして私たちは、この先行き不透明な世界をどう生きていけば良いのか? 自分の頭で考えるための知恵とユーモアがつまった1冊。たちどまったままではいられない。新たな歩みを始めよう!