もし母が今回の個展を見たら

という話を先だって妹としていたら、「でも、私にはいつも『マリは絵が描けて羨ましい』と言ってたけど」と言う。「お金にならなくても絵で頑張って生きていくべきだと言っていた」そうだ。本当だとしたら、母は単なるつむじまがりである。

寝たきりになって3年が経とうとしているが、もし彼女が今回の個展を見たら果たしてどんな反応をしていただろうか。

私にはやはり「いやあねえ、こんな下手くそな絵を並べて、恥ずかしい」などと言いながら、戸惑い気味に目を逸らす母の姿しか思い浮かばない。

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