助けを求めるように私に電話してきた
発熱してすぐに「おかあさん…」と、朝、電話がかかってきた。
あきらかに元気がない、熱と心細さでピクリとも動かなくなった大きな図体から、きれぎれの細ぉぉい声で電話をかけてきた。風邪や疲れからくる発熱なら、1日ぐっすり寝て治しなさい、なんなら根性で野球くらい行ってきなさい。普段の我が家ではいつもそんなかんじだった。
しかし、時はコロナ禍、感染者爆増中の大阪。コロナかどうかが白黒はっきりしなければ、学校にも野球にも行けず部屋から一歩も出られない。ただ、そのあたりの病院は発熱があるという若者の診察を受け入れてくれるところがほとんどなかった。検査可能な病院も予約でいっぱいで、検査を受けるまでは一人部屋で寝ている以外どうすることもできない。疑いのあるうちは階下の食堂で食事をすることも禁止。
近くに住む祖母や伯父のサポートで食糧を調達してもらえたことはありがたかったけれど、熱があるうちは誰とも対面できず、部屋のドアの外に食べ物を置いてもらって、なんとか息子はその時を凌いでいた。そしてその細ぉい声で助けを求めるように私に電話してきたとき……。
何を隠そう、母は都内の撮影所でライザップのアフターCM撮影中。
腹出し黒スパッツ姿に20cmハイヒールをはいてよろよろしながら、「あの」ターンテーブルでぐるぐる回っていた。
またまたぁ、ちょっと話オモシロくしてないか、って?いやホントの話です。
5ヵ月近くダイエットをがんばって、いよいよマイナス10キロ達成!
晴れ晴れキラッキラな表情で涙ひとすじ、アフター撮影に臨んでいるはずが…
それどころではない、まあまあな修羅場だったのである。
息子の電話を切ると、ほぼ馴染みのない500キロ離れた場所の病院を電話でしらみつぶしにあたる。
PCR検査のできる病院を検索し続ける母でありながら、ときおり撮影に呼ばれてはライザップのターンテーブルの上でニヤリと回る、大神いずみ。
気が気ではないのに、私はときおり「パンプアップ」などしながらターンテーブルで表情を「アイっ」と作る。撮影の合間にセットの脇に外れるとまた電話をかけまくる。何やってんだあたし。撮影はその日朝から夕方まで続き、用意されていた羊羹をほんの少しかじっただけで、朝からほとんど食べものがのどを通らなかった。何日か前まで一緒に暮らしていた息子が、具合悪そうに電話の向こうで 助けを求めている 。キラッキラ笑顔を作れる私も、我ながら怖い。 何より、熱を出して一人で困っている息子がちょっと車を飛ばしても届かないところにいることが、あらためてすごく怖かった。