「牡蠣の酒蒸し」
栄養士でありフードコーディネーターでもある藤岡操さんが「食堂のおかみ」になりきって提案するレシピ連載。大胆にも、この店のお品書きは「酒蒸し」1本! といっても、具材がや調味料が変われば趣も変わる魔法のレシピ。蒸し器がなくても、フライパンと料理酒さえあれば誰でもできるメニューの数々です。第2回は「牡蠣の酒蒸し」です。

本日のメニュー
「牡蠣の酒蒸し」

いつからこんなに牡蠣好きになったのだろう。記憶を辿ってみる。塾の先生だった父は、毎晩9時過ぎに帰宅し、お風呂上がりに晩酌をしていた。小学校低学年の私は、すでに布団に入っていたが、時折スッと起きてきては父のおつまみを少し食べさせてもらっていた。たしか、そのときに生牡蠣も体験していて、「牡蠣は海のミルク」というのも教わった。海のものには親しんでいたし、酢の物大好き一家だったので、ポン酢をかけた生牡蠣を抵抗なく食べた記憶がある。土鍋の縁に味噌を塗った牡蠣の土手鍋も、タルタルソースとウスターソース、2つの味で楽しむカキフライも大好きだった。

大学進学で一人暮らしをするようになってからは、牡蠣を食べる機会はめっきり減ったが、牡蠣とは赤い糸で結ばれているようで(大げさ!)、大人になって再び牡蠣を食べるようになった。岩牡蠣、牡蠣キムチ、牡蠣ごはん、照り焼き、天ぷら、ソテー、佃煮、オイル漬け、燻製、牡蠣がゴロゴロ入ったお好み焼き……色々な牡蠣料理を食べた。そんな牡蠣好きの私が、一番衝撃を受けたのが蒸し牡蠣だ。

NHKの朝ドラ『マッサン』の影響で、ウイスキーにハマっていたときのこと。スコットランドのアイラ島では、牡蠣にウイスキーをかけて食べるというのを知った。なんとオシャレで美味しそうな! と思っていたら、知人から三重県の“浦村牡蠣”が届いた。浦村は真水と海水が混ざる場所で、ぽってり太った旨味たっぷりの牡蠣が育つ。冬になると牡蠣小屋が並び、焼き牡蠣のいい香りがしてくる。知る人ぞ知る牡蠣の産地だ。

これはもう、神のお告げ。酒をふって蒸した牡蠣に、塩、オリーブオイル、レモンをひと搾り、そしてウイスキーをかけて食べてみた。ただ蒸して、ちょいと味付けしただけなのに、蒸し汁の美味しさたるや。ひとくちで虜になった。

私と蒸し牡蠣の出会いは、ウイスキーが香る大人の味だった。