「おむすび」作りが希望に満ちた行為に思えた
入院の準備も当然誰もしてくれない。必要なものをリスト化した。折角買うなら利便性の高いものや、コストパフォーマンスに優れたものが良い。ベッド周りにはS字フックがあったら便利だろう、イヤホンケーブルの長さは足りるだろうか。院内用の上履きは病院で処分しよう。帰らぬ人となる可能性も鑑みて、部屋の片付けもして行こう。
入院1週間前には、退院後に向けた準備を始めた。切除具合によっては、しばらく手が使えないかも知れない。服も上手く着られないかも知れない。買い物にも出られないかも知れない。そうだ、今のうちに「おむすび」をたくさん作って冷凍しよう。その時、いつの間にか生きていく方向に大きく舵を切っている自分にはっとした。何度も繰り返し「おむすび」を焼く。そんな事がこれほど希望に満ちた行為に思えたのは初めてだった。この先、心に軋みを感じたら、きっと私は「おむすび」をたくさん焼いて、あの時の感覚を呼び起こすだろう。
第13回 リリー・オンコロジー・オン・キャンバス
がんと生きる、わたしの物語。コンテスト 受賞作品一覧
・絵画部門最優秀賞『きらきらゆらゆら悔いなく自分らしく』
・絵画部門優秀賞『おかあさん ありがとう』
・絵画部門入選『再生した私』
・絵画部門入選『また逢う日まで』