ノンフィクション作家の川内有緒さんは、数年前に全盲の白鳥さんとアートを巡る旅を始めました。目の見えない人が美術作品を「見る」とはどういうことなのか? 触って見るのか、それとも何か超能力があるのでしょうか? 実際に同行させてもらうと、川内さんにとって発見の連続だったそうでーー。(構成=山田真理 撮影=鍵岡龍門)
目の見えない人が美術作品を「見る」とは
3年前、「白鳥さんと作品を見ると楽しいよ!」と友人から誘われたのが、私と全盲の美術鑑賞者とのアートを巡る旅の始まりでした。
現在52歳の白鳥建二さんは生まれつき強度の弱視で、12歳でまったく見えなくなった人です。にもかかわらず年に何十回も美術館に通い、独自の方法でアートを鑑賞しておられる。
目の見えない人が美術作品を「見る」とはどういうことなんだろう。触って見るのか、何か超能力があるのか? 最初は何もわからないまま展覧会に同行しました。
白鳥さんは作品の前に立つと、「じゃあ、何が見えるか教えてください」と言いました。同じ一枚の絵でも、私と友人では「女性が抱いた犬をじっと見てる」「いや、食事の途中で考えごとを始めた様子では」と見え方が違ったので、まずその事実に面くらいまして(笑)。
つまり個人の知識や経験によって、作品の解釈が変わるんですね。それぞれの見方の違いや、作品について交わされる会話を楽しむ……これも白鳥さんがアートを「見る」ことの要素だったりなどと、発見の連続でした。
目の見えない人に絵を説明することで、自分の目の“解像度”が上がって、今まで見えていなかったものが見えてくるのも面白かった。
白鳥さんの経験では、美術館スタッフに「湖の絵と思い込んでいましたが、じつは原っぱでした」と謝られたこともあったとか。私たちが、いかに常識や思い込みにとらわれているかを示すエピソードの一つです。