女優の室井滋さん(左)と、老いの専門家・伊藤裕さん(右)(撮影:村山玄子)
文字が見えにくい、つまずきやすい、顔がたるんできた、人の話が聞きとりづらい――。それは、体に溜まった《負債》によるもの。女優の室井滋さんが、老いの実体験をもとに専門家に疑問をぶつけました(構成:野本由起 撮影:村山玄子)

遺伝子の傷が不具合を起こす

室井 この間、富山へ行くために登山用の大きくて重いリュックを背負って新幹線に乗ったんです。電車を降りる時、床に落ちていたペットボトルを拾おうとしゃがんだら、バランスを崩して亀みたいに仰向けにひっくり返ってしまって……。これまであまり老いを意識したことはありませんでしたが、私も確実に年を取っているんだなと思いました。

伊藤 平衡感覚と筋力の衰えかもしれませんね。

室井 先生、そもそも老化とは、どういう現象を指すんですか?

伊藤 老化とは、簡単に言えば「元に戻らない、戻りにくくなる」ことです。若い頃は風邪を引いてもすぐに治りましたが、年齢を重ねるにつれて治りにくくなりますよね。ちょっとした傷も、なかなか跡が消えません。これは、人間の遺伝子が加齢や生活習慣、生活環境によって傷つき、深い跡が残ってしまっているからです。

室井 なるほど。

伊藤 たとえば、高血圧や高血糖も、長年の生活習慣によって生じた遺伝子の傷が臓器の不具合を起こした結果です。傷が浅い段階で修復する努力をしないでいると、細胞の機能がどんどん低下して、さまざまな病気を引き起こしたり、老化を加速させたりすることに繋がってしまいます。

ツケが溜まれば体は元に戻らなくなりますが、返済の努力をすれば老いを食い止められる。こうした特徴から、私は加齢とともに生じる体の不具合を《老化負債》と呼んでいます。

室井 年齢を重ねても若々しい人はいますよね。負債の溜まりやすさには、個人差があるのでしょうか?

伊藤 そうですね。若々しい人は元に戻る力、つまり回復力が強い。この力は、本人のやる気次第である程度鍛えることができるんですよ。

室井 自分次第でなんとかできるなんてビックリ!

伊藤 健診で高血圧や高血糖を指摘されたものの、「今日はたまたま高かっただけ」「これまで健康だったし、まだ大丈夫」と今までどおりの生活を続けてしまえば、負債はどんどん積み重なっていきます。ですが、検査結果をきっかけに生活習慣を見直すことができれば返済可能です。