ひとつのストーリー
後日、義父が付き添って警察署に出向き、義母は運転免許を返納した。2020年末のことだ。
その日以降、義母のなかではひとつのストーリーが出来上がっている。
そのストーリーとは、「テレビで高齢者が事故を起こしたニュースを見たから、免許は返して、車も廃車にしました」というもので、義母はその事故の様子を詳細に語る。
本当にそのような事故のニュースを目撃したのかどうかはわからない。それでも、義母のなかに納得のいく理由ができたことはよかった。
車を移動させた直後は、泥棒だと怒りをぶつけられた私と夫。
ある日は泣きながら電話をかけてきて、「車の代金を300万円支払ってくれ」と言われたり、「(和食店を営んでいるときにお世話になっていた税理士に電話したら)子どもであっても、車を盗むのは窃盗罪にあたるということですから、警察に通報します」と言われたり、とにかく義母の車に対する執着は強かった。
ケアマネ曰く、「車って自立した生活の象徴みたいなものですから、それを奪われてしまった焦りと悲しみ、そんなところだろうと思います。よくあることですよ」ということだった。
※本稿は、『義父母の介護』(新潮社)の一部を再編集したものです。
『義父母の介護』(著:村井理子/新潮社)
認知症の義母と90歳の義父。
仕事と家事を抱え、そのケアに奔走……。
ホンネ150%、キレイごとゼロの超リアルな介護奮闘記。