その後
「結局、俺は何をさせられていたんでしょうね」
清水さんはそう言って、困ったような笑いを浮かべた。
「あの取っ手を修理することが、何かの条件だったんじゃないか。古井戸の取っ手と同じだったってことは――でも、普通古井戸にあんな精密な室内用の取っ手なんて付けないんですよ。本来なら、もっと単純な鉄の蓋に頑丈な錠前のはずなのに。それが床下収納と全く同じ機構だった。鍵師として言わせてもらうと、これはあり得ないことなんです」
彼の表情には、確かに疲れのようなものが浮かんでいた。
「一番怖いのは、関わってしまった今後ですよ。あのときから、時々夜中に目が覚めるんです。心配で眠れなくて」
※本稿は、『錠前怪談』(竹書房)の一部を再編集したものです。
『錠前怪談』(著:正木信太郎/竹書房)
開けられなくなった場所や物をひらく職人、鍵師。
業界で「鍵の者」とも呼ばれる彼らが体験した不可思議で恐ろしい事件の数々を取材した怪事記。




