独自モデルの必要性
こうしたCCRCの素晴らしさはありつつも、CCRCを日本へそのまま移植しようとすると、土地・経済規模・制度という三つの壁が一度に立ちはだかります。
最大のハードルは土地です。
アメリカでは20万平方メートル級の郊外用地に住宅・医療・商業を水平展開するケースが一般的ですが、日本の都市近郊に同規模の更地を確保するのはほぼ不可能です。地方へ視点を移しても、医療資源や交通インフラが乏しい場所では入居者を呼び込めません。結局、開発余地は既存市街地の再開発か2~3ヘクタール程度の中規模に限られ、大規模CCRC特有の「街ごとデザインする」という醍醐味は削がれてしまいます。
敷地が縮小すれば、内部経済のスケールメリットも失われます。
米国では6000~8000人規模のコミュニティが珍しくありませんが、日本で計画されるCCRCは数百~千人程度にとどまります。入居者数百人では、敷地内の飲食店や専門店が単独で黒字を確保するのは難しく、メニューや品ぞろえが限定的になりがちです。店側が撤退すれば、生活利便性を担保するために運営法人が補填するか、入居者がキャンパス外へ買い物に出ざるを得ません。
結果として「街の中で暮らしが完結する」というCCRCの魅力が薄れ、住宅型有料老人ホームとの差異がぼやけてしまいます。
制度面では介護保険が大きな制約です。
日本の介護報酬はサービス区分と単位数が厳密に定められており、CCRCが目指す“シームレスなサービス移行”をそのまま反映することが困難です。
たとえば自立住宅から介護住宅へ移る際に個室面積が狭くなると、住宅改修費を自己負担で再計算する必要が生じる場合があります。また、医療と介護が別体系であるため、クリニック併設型にすると今度は診療報酬の人員配置や病床規制が重なり、運営コストが跳ね上がります。
さらに介護保険は原則65歳以上を対象とするため、米国で見られる「60歳前後から移り住んで就労や学びを続ける」というライフスタイルを日本で再現しようとすると、保険外サービスへの依存度が高まり、利用料負担が増えるという別の問題が浮上します。
土地の狭さが施設を小規模に押し込み、内部市場の細りが商業機能を圧迫し、介護保険の枠組みがサービス設計を縛る――これが、日本版CCRCが抱える三重苦です。
だからといって、挑戦の芽を摘む理由にはなりません。
土地が限られるなら複数拠点をネットワーク化し、内部市場が小さいなら地域通貨やポイント制で外部経済とつなぎ、介護保険の制限があるなら保険外サービスの質と透明性で納得感を高める。日本型モデルを実現する鍵は、大小の制約を“前提条件”として組み直す発想にあると言えるでしょう。
※本稿は、『未来をつくる介護』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
『未来をつくる介護』(著:森山穂貴/クロスメディア・パブリッシング)
本書ではアメリカのCCRC(生涯居住型コミュニティ)を参考に、日本の実情に合わせた独自モデルを提唱。
「課題先進国」から「解決先進国」へと転換する可能性を示します。




