撫で続けた最期の20分間

この時、私たちよりも先にココが爪切りのために診察室に入っていました。恐らく獣看護師さんがピンに「ココちゃん、来たよ」とピンに声をかけてくれたのでしょう。ピンはココと共に私や夫も病院に来ていると察知。後から別の獣医師が言っていたのは、「ピンちゃん、きっと『旅立つなら、みんなが集まった今だ!』と思ったのではないですか?」とのことでした。

「ピン!」と私が声をかけると、ピンは「遅いよ!」なのか、「見ないで」なのか、キッと私を睨みつけました。私とピンの間では“おなじみの表情”でしたから、ほら、ピンは元気じゃない…と思ったほどです。でもそこからは20分後、ピンは旅立ってしまいました。

最期の20分間、私は獣看護師から受け取った呼吸器をピンの口にあて、もう片方の手でピンを撫で続けました。ミニピンの多くは断尾していて、ピンも生後すぐに短い尻尾になっています。何かの本で「撫でるときは、尻尾を切る前の長さまで空中を撫でてあげるように」と読んだ記憶がよみがえり、ずっと、そうしていました。

ピンは静かに息を引き取りました。最期のピンの一息をこの目で確認することもできました。その後、先生方が別の部屋で15分近く心臓マッサージをしてくださいましたが、ピンが戻ってくることはありませんでした。

待合室に戻ると、いつもは多くの飼い主さんでごった返しているソファに誰も座っておらず、ガラス窓からオレンジ色の陽が差し込んでいて、これはもしかしたら悲しい夢なのかもしれないと思ったほどです……。