まだゴールテープは切っていない

歌手としては、まだまだこれからです。やりたいこと、試したいこともたくさんあります。チャンスが来たらすぐに捕まえられるように、いつも準備をしておくのは、今も同じです。
役者なら年齢相応の役柄があるけれど、歌手は1曲の間はいつも主役。ヒット曲ほど、キーを下げて歌うとお客さんにわかっちゃうので、やたらと下げるわけにいきません。歌手というのは厳しい仕事です。
今もコンサートで26曲歌ったりしていますが、それを聞いて「本当に生で歌ってるの?」と聞かれたことがあります。そんなことを聞くということは、歌ってない、いわゆる「口パク」の人がいるということですよね。(笑) 
そんなこと、考えたこともありません。
常にどんなステージにしようかと考える。お客さんにどうやって喜んでもらおうかといつも挑戦です。これが大変だけど楽しいんです。

今の歌謡界は、プロとアマチュアの差がどんどんなくなってきています。カラオケが発達して、アマチュアのレベルがどんどん上がっているし、SNSなどを使って自分で発信できるようにもなっていますから。
でもそれじゃいけない。プロである以上、お金をいただいている以上、ただ歌がうまいだけじゃなく、お客さんを喜ばせなくちゃいけないんです。

僕は、日本の文化である昭和歌謡はずっと残していきたいと思っています。だから、自分のヒット曲以外にもいろいろな先輩歌手の歌を歌い継いでいます。
僕はデビューの頃からすごい大先輩たちに追いついて追い越したいと思っていました。歌番組も全盛時代でしたので、それこそ歌謡曲、演歌からポップス、ジャズ、サンバまで、あらゆるジャンルの歌を一人で歌うことができます。

でも僕の歌を、だれか一人の歌手に受け継いでもらうのは大変でしょうね。複数の歌い手さんが、得意なジャンルの歌を歌っていってくれればいいですね。

今は、どんな世代の人もわかる大ヒット曲がなくなりました。細分化され、年代によって受ける歌、沁みる歌詞、歌えるリズムはさまざまです。
だから、僕の歌は僕の年代の人たちにわかってもらえればいいと思っています。
これまで応援してくれて、50年ファンでいてくれる人たちのためにも、僕はこれからも一生懸命歌い続けなくちゃいけない。喜んで聴いてくれる人がいる限り、歌い続ける。これが使命です。

まだゴールテープは切っていないんですよ。ゴールが見えていない。
どんなゴールが待っているのかわかりません。ゴールが見えたらそのときは、両手を高く上げて、堂々をゴールテープを切りたいですね。
その前に妻と時々、海外旅行にでも行きたいなと思っています。

厳しい芸能界を60年も生き抜いてきたとは思えない穏やかな表情で、長時間にわたるインタビューに丁寧に言葉を選びながら答えてくれた彼の誠実な人柄は、そのまま芸能生活における彼自身の生き方であったのかもしれない。
「家族が全員揃うと、今、10人なんです」とうれしそうに話す表情はどこまでも温かい。
「時は流れて・・・」「愛しき娘よ」で家族や娘へのメッセージは贈ったが、
妻だけに感謝をこめて贈る自作の曲は、まだ完成していない――。

メイクもスタイリングも自身で手掛けるという五木さん(写真撮影:本社・奥西義和)

●五木ひろしyoutube番組「あなたとアイマショー」Vol.1