彼を失うという恐れや不安はまったくなかった
由紀さんには、彼を失うという恐れや不安がまったくなかったようだ。でも本当に、セックスのできる女のほうへ行ってしまうのでは? という恐れはなかったのだろうか。
「そしたら、それまでだったっていう考えでしかなかったです」
由紀さんは、ひるむことなく即答した。愛されているという相当な自信が感じられた。
家賃を尋ねると、「知りません。家賃がいくらって聞こうとは……」
はじめて家賃の支払いがあることを認知したようなおぼつかない言い方だった。なんとも穏やかで、のんびりとした由紀さんだ。
「彼が面倒を見てくれるってことで、私は仕事をやめて、とりあえず主婦みたいに家に入ったんです。デパートは時間が不規則で早番や遅番とかあるので、一緒に時間を過ごすのは無理だなと思って……」
彼に金銭的な面倒を見てもらったら、余計にエッチをさせてあげなくては……と、心の負担になりかねないのに、それでも由紀さんは、その時点でもまだ結ばれることは考えていなかった。
「よくまぁ……」
私は、その先の言葉を失ってしまっていた。
「あとから聞いた話ですけど、衝動に駆られる時はあったらしいんですね。それでも私が『いいよ』と言うまではできないと、抑えていたそうで……」
由紀さんは、カラッと笑った。それでも彼のことを気の毒に思っていなかったとうかがえる。住居のなかでおたがいに見れるのは、服を着た姿だけだった。