(写真提供:Photo AC)
厚生労働省が公表した「令和5年(2023)人口動態統計(確定数)の概況」によると、2023年の死亡数は157万6016人で、前年より6966人増加しました。いつかはおとずれる<死>について、年間200人もの死に立ち会ってきた精神科医・和田秀樹先生は「みんな死ぬのだから、必要以上にこわがったり、不安になることもない」と話します。そこで今回は、和田先生が「ひとりになってからどう生きるか」を指南した新刊『死ぬのはこわくない ―それまでひとりを楽しむ本』から、一部を抜粋してお届けします。

この病気にだけはなってはいけない

高齢者専門の精神科医として私が診ている患者さんの6〜7割は認知症で、3割ぐらいがうつ病です。認知症は多幸的になる人が多いのですが、うつ病は悲観的で自分が人に迷惑をかけているという罪悪感に苦しんでいる人が多い。しかも毎日がだるく、食欲もなく、何か食べても味がしないというつらい症状も続きます。

実は、高齢の患者さんを長年診てきた私が、もっともなりたくないと恐れている病気がうつ病です。

各種の地域住民調査によると、うつ病は一般人口の3%程度の有病率ですが、65歳以上になると、それが5%に上がります。これは、高齢になればなるほど、セロトニンという神経伝達物質が減るからです。セロトニンが減っているため、ストレスなどでもっとセロトニンが減ってしまうと、うつになってしまうのです。

高齢者になると、身体はもちろん、心にもダメージを受けることが増えます。仕事を失うこと、伴侶や兄弟姉妹、長年の友人との死別、老化による自信の喪失などストレスフルなことが容赦なく押し寄せる。もともとセロトニンが少ないことに加えて、ガクッとくるような体験をすると、それを引き金にうつ病になってしまうのです。

そして、そのガクッとくる体験の中で、もっともうつ病につながるとされているものが、喪失体験です。このことは、ぜひ知ってほしいと思います。

高齢者に身近なうつ病ですが、そのこわさはあまり知られていません。うつ病になり食欲不振になると、高齢者は簡単に脱水症状を起こします。脱水すると血液中の水分が足りなくなって血液が濃くなるので、脳梗塞や心筋梗塞を起こしやすくなります。

脱水状態になると免疫機能も落ちてくるので、肺炎も起こりやすくなります。うつ病になって体力を落として亡くなってしまうこともめずらしくないのです。

また、先ほどいった身内や親友との死別など度重なる喪失体験から、孤立感を深めて自殺する高齢者も少なくありません。やはり、うつ病だけは、何としても避けなくてはなりません。