「寝たきりになってまで長生きしたくない…」そんな不安を抱える高齢者が増えています。2000人以上を看取った在宅緩和ケア医・萬田緑平先生は、【延命より満足、治療より尊厳を】と提唱。必ずしも「医療を拒否する」のではなく、その向き合い方を考えながら、どうやったら最期まで自分らしく幸せに「生ききる」ことができるのか。萬田先生によると、そのヒントは「歩く」ことにありました。著書『棺桶まで歩こう』より、一部を抜粋して紹介します。
がん患者専門の在宅ケア医になる
緩和ケアの専門医になった今、群馬大学の先輩の中にも、「おまえ、天職だなあ。あの頃からそういうことやってたもんな」と言ってくれる方がいます。
どうして新米の医師1年目から誰もやらないことができたのか、と訊かれることがあります。
自分でもなぜだろう、と考えました。僕は成績優秀ではありません。間違いなく記憶力が悪い。
対して、周りのみんなはすごく記憶力がいい。だから、優秀ではない僕は、「考える」というところでがんばらないとかなわない。
逆に言えば、優秀で記憶力がいい人たちは、知識はあるけれどさほど考えない。
僕はすごい医者ではないから、どうして患者がつらい思いをする「看取り」ばかりなのか、とにかく考えました。
「どうしてこの人はつらそうなんだろう?」「みんな苦しそうに亡くなっていくのがおかしい」と、考えに考えぬきました。
なんとかならないか、なんとかならないか……毎日考えました。何年も考えて、「できるだけ本人がつらくない」やり方にたどり着いたのです。