武者鑑一名人相合南伝二 大姫君(一猛斎芳虎画、国立国会図書館データベース
第167回直木賞候補作『女人入眼(にょにんじゅげん)』は、源頼朝と北条政子の娘・大姫を帝の后にしようとする政策「大姫入内(おおひめじゅだい)」をテーマにした小説です。NHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』でも話題を呼んだこの政策は、「鎌倉幕府最大の失策」と呼ばれています。その背後にあった、現代にまで根を下ろす問題とは? そして鎌倉時代の女性たちから、今の日本人が学ぶべきこととは? 著者の永井紗耶子さんに話を聞きました。(撮影:本社 中島正晶)

女性が時代を変えた鎌倉期

『女人入眼』で初めて鎌倉時代に挑みました。高校生のときに『女人入眼』の原型を書いているんです。当時から歴史小説が好きだったのですが、女の人が主体として活躍する歴史小説が少なかったので、自分で書いてみようと思ったのがきっかけです。今回描いた平安末期から鎌倉時代初期は、朝廷と幕府という新旧の政治システムの対立が始まる時代の転換期ですが、丹後局や北条政子など、どちらの中心にも強い権力を持つ女性たちがいた。そこに面白さを感じました。

戦国時代や幕末が人気が高い理由の一つは、時代の転換期として様々な価値観が大きく変わるからだと思うんです。これは鎌倉時代も同じ。「権力を握るには帝に娘を嫁がせて外戚となる」という、古代から続いていた政治手段が通じなくなっていく。その一つの現れとなるのが、今回題材にした「大姫入内」だと考えています。貴族たちから武士たちへ、時代の担い手が変わる。その変化をもたらしたのが女性たちであるとも考えられます。

 

 

『吾妻鏡』は鎌倉時代研究の前提となる基本史料。大姫の病について書いた部分(写真提供:永井紗耶子さん)