深刻な介護問題

とくに介護の問題は深刻です。日本では、いまだに「親の介護は家族が担うもの」という価値観が強く残っています。

なかでも娘や妻などの女性が自分の仕事や人生を犠牲にして、家族の介護にあたるケースが少なくありません。その結果、介護離職を余儀なくされたり、うつ病になったりする女性が多いのも現実です。

『医師しか知らない 死の直前の後悔』(著:和田秀樹/小学館)

「親を施設に預けるなんてかわいそう」という価値観から、無理をして在宅介護にこだわる家庭もありますが、介護というのは想像以上に過酷なものです。

たとえば認知症の親を自宅で看る場合、トイレの失敗や、同じ質問の繰り返しなどで日常的に大きなストレスにさらされますから、親の「できないこと」に対して、つい腹を立ててしまうことがあります。

一方、親の側にも「いちばん身近にいる人にきつく当たる」とか「感情のブレーキが効かなくなる」といった認知症の症状が出てきて、介護する家族が深く傷ついてしまうこともあります。

本当はお互いが大切な存在であるはずなのに、いがみ合ってしまう──。それはとても辛いことではないでしょうか。

「親の介護は家族が担うもの」という考えは今も根強く残っていますが、私は施設に入るという選択肢についても、もっと柔軟に考えていいと思っています。

今の時代、さまざまな介護施設やケアマネジャー、行政のサービスなど、外部のプロの力を借りるのは、ごく自然な選択です。とくに介護は心身ともに疲弊する大変な仕事ですから、他人に頼るのはけっして悪いことではありません。

何より大切なのは、家族みんなで「介護にどう関わるか」「誰がどこまでやるか」を率直に話し合うことです。その際には、それぞれの仕事や生活環境、心身の状態なども踏まえて尊重し合うことが前提になります。

当然、一人に過度な負担が集中すれば、深刻なストレスにさらされ、最悪の場合、共倒れにもつながりかねません。介護をする側も、される側も、どちらかが追い詰められてしまうような状況はもっとも避けたいところです。