一人暮らしの高齢者は「孤独」で「かわいそう」?
また、親子の同居に対しても、慎重であったほうがいいと私は考えています。
たとえば高齢になると、子どものほうから「お母さんのことが心配だから、一緒に住まない?」などと言われることもあるでしょう。
親を思ってのことでしょうが、それが必ずしもよい結果をもたらすとは限りません。
途中からの同居や過度な干渉は、お互いの生活リズムや距離感が変わり、無理にすり合わせようとすると、お互いのストレスになることがあるのです。
距離が近すぎる関係では、どうしても衝突や行き違いが起こりやすくなりますが、親子でもそれは同じです。
いえ、親子だからこそ、遠慮のないやり取りになってしまって余計にこじれることもあります。とくに親の世代と子どもの世代では生活習慣や価値観などが違うため、摩擦が起こりやすいということもあります。
親の健康や事故などが心配で同居を始めたものの、お互いのストレスやトラブルが想像以上に多く、最終的に同居を解消したというケースもしばしば聞きます。
やはり人間関係には、ある程度の「距離感」が必要なのです。
たしかに、子どもから「高齢者の一人暮らしは心配だから、一緒に住もうよ」と言われると、親としてはなかなか断りづらいと感じる人も多いかもしれません。
けれども、これまで離れて暮らしていた子どもに呼び寄せられて、急に同居を始めるとなると、親の生活は一変します。
とくに歳をとってから住環境を変えるというのは、想像していた以上に心理的な負担になることがあります。
それまで住んでいた地元には、友だちや知り合いがいたり、ご近所づきあいがあったり、なじみの店や習いごとがあったりして、それなりに人間関係が築かれているものです。そうした関係をすべて断ち切って子どもの家に移り住むことは、心身への負担を大きくします。
実際に引っ越した先での環境や人間関係にうまくなじめず、ストレスを抱えている高齢者も少なくありません。
また、親の実家に子どもの家族が入ってきて同居するというパターンでも、同居がきっかけでお互いに気を遣い過ぎるようになったり、不満をため込むようになったりして、親子関係がこじれてしまい、修復が難しくなることもあります。
高齢者の「幸福度」を調べた調査でも、途中から同居を始めた人は、幸福度が低くなる傾向があることがわかっています。