「言葉の引き出し」を使う
そのとき、お母さんは感じたそうです。
「今まで、不毛なやりとりが続いたのは、私が火に油を注いでいたからかもしれない」
お母さんが「言葉の引き出し」を使うようになると、それまでの「お互いにイライラするやりとり」が、普通の会話へのきっかけになることも増えました。
あいかわらず「太ってる」「そう思うのね」の問答から始まるのですが、しばらくすると「ねえ、**大学って舞踊学科があるんだって」と、体型以外の話題がEさんの口から出るようになったのです。
ダンスへの情熱、将来の夢、オーディションの悔しさ、体重管理を怠った後悔など、プラスとマイナスの思いでEさんの気持ちは混乱していました。
最初は「今すぐこの子の食べ方の問題を解決したい」、「この子の苦しさを、なんとかしてあげたい」とお母さんは必死でした。
けれど、「娘のすべてを受けとめる」と方向転換したとき、状況は確実に変わっていきました。Eさんの言葉と気持ちをひたすら受けとめたおかげで、Eさんの感情の荒波は少しずつ穏やかになっていき、摂食障害もしだいに落ち着いていったのでした。
※本稿は、『わが子が摂食障害になったら読む本』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。
むちゃ食い、食べ吐き、食事を拒絶……それは「わがまま」ではなく「心の病気」です。
子どもの「治りたい」気持ちを引き出す言葉がけをロールプレイで習得。
過食から回復した、元教師の心理カウンセラーが解説。
出典=『わが子が摂食障害になったら読む本』(著:大橋とも 監修:松本功/ビジネス社)
大橋とも
公認心理師、マインドフルネス(MBRP)講師
摂食障害25年間の当事者であり、元小学校教諭で、現在、子ども2人の母親。中2の冬、摂食障害を発症。高校では不登校を経験。大学卒業後、1年のフリーターを経て、公立小学校教員として20年間勤務。のべ1000人以上の子どもたち、400組以上のご家庭の支援をする。「食べることに苦しむ人の力になりたい」と決意し、教員を退職。公認心理師を取得後、2023年4月に摂食障害親子サポートとして開業。これまでのべ2000人を超える方の支援を行う。SE(TM)(ソマティック・エクスペリエンシング(R))中級修了、AEDP(TM)レベル1セラピスト等の知見を活かし、摂食障害の根っこにある心の傷を安全に癒す支援を行っている。摂食障害は回復できる!と希望を届けるために活躍中。
松本功
精神科医
昭和57年信州大学医学部卒業。現在、依存症専門病院赤城高原ホスピタルに非常勤で勤務し、PTSDケア松本メンタルクリニックを開業。EMDR Part2修了。東京サイコドラマ協会認定サイコドラマティスト。Somatic Experienfing(R)プラクティショナー。NARM(TM)プラクティショナー。DAReプラクティショナー。IFSレベル1修了。主な著書に、『いのちのサイコドラマ』(翻訳、群馬病院出版会/弘文堂)、『ロールトレーニング・マニュアル』(共訳、二瓶社)、『発達性トラウマ その癒やしのプロセス』(監訳、星和書店)、『窃盗症:クレプトマニア―その理解と支援』(共著、中央法規出版)、『なぜ私は凍りついたのか』(共著、春秋社)、『わが国におけるポリヴェーガル理論の臨床応用』(共著、岩崎学術出版社)がある。