「淡い記憶を辿れば、幼稚園時代から人前で表現するのが好きでしたし、テレビが大好きで「この世界に行きたい」と夢見るような子どもだったので、ごく自然な流れだったのかもしれません。」(撮影:宅間國博)
トップ声優でありながら、歌手や俳優としての顔も持つ宮野真守さん。さらに、バラエティ番組やドラマ『半沢直樹』への出演でお茶の間を賑わせている。枠にとらわれないエンターテイナーを形作ったものは(構成=上田恵子 撮影=宅間國博)

オーディションに受からない日々

僕は現在、声優の仕事をメインに活動していますが、所属しているのは劇団です。もともと2歳上の兄が入っていて、7歳の時に僕も一緒にやりたいと駄々をこねたのが入団のきっかけだった――と母から聞いています。

でも、淡い記憶を辿れば、幼稚園時代から人前で表現するのが好きでしたし、テレビが大好きで「この世界に行きたい」と夢見るような子どもだったので、ごく自然な流れだったのかもしれません。

当時、僕には「他の子とは違うんだぜ」という根拠のない自信がありました(笑)。でも、それも一時のこと。とにかくオーディションに受からないのです。まわりの仲間は次々と大きな役が決まっていくのに……。高校生になる頃には、劣等感に押しつぶされそうになっていました。

でもある日、ふと気がつきました。そもそも自分はどうこう言うほどの努力をしてきていないじゃないか、と。何か光るものさえあれば成功できる世界だと勘違いしていたんでしょうね。そのことに気づいてからは、ダンスや歌など、とにかくあらゆるレッスンに本気で取り組むようになりました。

とはいえ、少々頑張ったくらいでうまくいくわけではないのが、この世界の厳しいところです。状況はなかなか変わりませんでした。高校卒業が近づき、友だちは次々に進路が決まっていく。僕も焦って違う道を考えてみたりして、先生に「今からでも進学って大丈夫ですか?」と聞いたら、「えっ、今から!?」と驚かれました。当時は本当に悩んでいたんです。自分に何が向いているかなんてわかりませんでしたから。