できることをやって前に進むしかない

1カ月以上たっても、田中さん一家は仮住まいのまま。十勝の復興はあまり進んでいなかった。これ以上迷惑をかけられないと、馬たちを十勝から富良野へ運んだ。大塚家には犬1匹、猫1匹が新たに加わって、人間2人、馬5頭、犬2匹、猫3匹と、ムツゴロウ王国状態になりつつあった。

十勝の牧草地で被災した馬と(写真:『レストラン「ル ゴロワ」のレシピから-季節のごはんと暮らし方』より)

被災したことで、新生ル ゴロワプロジェクトは牛の歩みを強いられた。近くの農家の知り合いは空き家情報をいつもくれるし、麓郷の丘の上でのレストランオープンプロジェクトの話もある。

一方、来年の夏、台風が来て同様のことが起こったら、馬は流されてしまうだろう。建物の裏山からの土砂崩れの心配もある。

「こけては進み、こけては進み。いや、進んでないかな(笑)。富良野で小さなレストランを作りたいと思ってきましたが、違う方法もあるかもしれない。来年の夏、台風が来たらどうするか。そんな危機管理も考えなければいけないし。先のことを考えても仕方ないから、とにかくいまできることをやって、前に進んでいきます。振り出しに戻りましたが、何かが見えてきたような気がします」

いまは塾地での生活を軸にしつつ、ケータリングなどの仕事を受けて生活の糧を稼いでいる。寒い季節がすぐそこだ。富良野での初めての冬籠もりはどうなるのだろう。

※本稿は、『レストラン「ル ゴロワ」のレシピから-季節のごはんと暮らし方』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。


『レストラン「ル ゴロワ」のレシピから-季節のごはんと暮らし方』(著:大塚健一、大塚敬子、北村美香/朝日新聞出版)発売中です

東京・表参道で人気を博していたフレンチレストラン、「ル ゴロワ」。人気店を閉め、倉本聰の計らいで富良野塾に住み始めた夫婦が、新たにお店を始めるまでのストーリーとシェフの季節のレシピ、北の国の暮らしを美しい写真と文章で紹介。