高校のアマチュアバンド時代から一緒にやってくれている、キーボードの神本宗幸くんも言うのです。「本番のときの世良さんは大きなアクションで肩から湯気が立ち上っている感じだけど、リハーサル時の、ポケットに手を突っ込んでフラッと歌い出し、そこにいるだけなのに歌の世界に引き込まれる……そういう世良さんを見たい」と。

僕のことをよく知る、信頼できる仲間たちの言葉は重かった。悩みに悩んだあげく、音楽を一からやろうと決意したのです。

40歳を前に、俳優の仕事を控え、ギター1本を持ってロスに渡ったり、アコースティックギターだけのライブをやる、といったことを始めました。

そして、99年に2度目の日本アカデミー賞・優秀助演男優賞をいただいた直後、映像の仕事はすべて辞めたのです。俳優として評価していただくことはありがたかったですが、僕の選択は、覚悟を持って音楽活動に専念すること、でした。俳優を完全休業すること十数年。連続ドラマは、『マルモのおきて』への出演が17年ぶりでした。

ブルース・リーの名言に、「Be water~水になれ」というのがあります。俳優業を再開してからの僕は、この感覚でしょうか。水の流れのように、表現者としてそのつど形を変えるのを恐れない。

僕には音楽がある。音楽をやっているときは世良以外の何者でもない。音楽と徹底的に向き合い、そのことが確信できたから、映像で役柄を演じるとき、誰か別人になることを恐れる必要がなくなったのです。

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