子どもに事業をさせて投じる

たとえば親が「家を売って3億円の老人ホームに入ろう」と考えている場合、子どもは「財産が減ってしまう」と考えて反対することが多いのです。

はるかにランクの低いホームに入ることになったり、節約のために子どもとの同居を強いられたりするのは、珍しいことではありません。

不本意ながら同居することになって、住み慣れた地域を離れて子どもに遠慮しながら暮らし、寂しく晩年を過ごしたという例はよく聞きます。

こうしたトラブルが生まれてしまうのは、財産という形で子どもに何かを残そうとするからです。家族が争う悲しい状況を引き起こしたり、不本意な晩年を過ごすことになったりするのなら、自分のために使ったほうがよほど健全でしょう。

漫然と相続させるくらいなら、子どもに事業をさせて、相続させるはずのお金をその事業に投じてみましょう。

もし子どもが事業に失敗して1円もなくなったとしても、ただ漫然とお金を相続させるよりは、社会を生き抜く力が身につくはずです。また、全体で見れば遺産としてお金を動かさずにいるより、社会は活性化するのです。

お金は自分の楽しみに使い、子どもには残さないのが、現代の賢い新常識になってほしいと、私は切に願っています。

※本稿は、『シン・老人力』(小学館)の一部を再編集したものです。


シン・老人力』(著:和田秀樹/小学館)

本書では、世界基準に照らした医学的な方法論だけでなく、30年にわたり、6000人以上もの高齢者と向き合ってきた私の経験則に基づき、「シン・老人力」をつけるための具体的な方法を提案します。