ダイエットによって起きる予想外の適応

ダイエットによって起こる変化はこれだけではありません。これまで述べてきたように、基礎代謝量は体重や除脂肪組織量によって決まるため、それらの値を使えば、おおよその基礎代謝量を推定できます。しかしながら、ダイエット後の体重や除脂肪組織量の値を使って基礎代謝量を推定した場合、その推定値が実測値とは大きくかけ離れてしまい、実測値が推定値よりもはるかに小さくなることが知られています(つまり、ダイエット後には除脂肪組織の量的な変化だけではなく、質的な変化も起こっていると考えられます)。

有名な例として、アメリカのTV番組「The Biggest Loser」の参加者についての調査結果があります(5)。この番組は、肥満の人たちが、ダイエットによる体重減少量を競うという内容のもので、なるべく体脂肪量だけを減らせるように注意しながら、運動と食事制限によるダイエットを30週間にわたって行った結果、16名の参加者の体重が平均で149キログラムから92キログラムまで減少しました(57キログラムものダイエットに成功し、そのうちの80パーセント以上が脂肪の減少によるものでした!)。

ダイエット開始前の基礎代謝量(実測値)は2679キロカロリーであり、体重や除脂肪組織量の変化から、ダイエット後には2393キロカロリーに減少すると推定されていました。しかしながら、実際に正確な方法を用いて基礎代謝量を測定してみると、その予想をはるかに超え、1890キロカロリーにまで基礎代謝量が低下してしまう(体重や除脂肪組織の量が減っただけではなく、質的な変化も生じて、基礎代謝量が予想よりも1日あたり500キロカロリーも少なくなってしまう)ことがわかりました。

つまり、この体重(92キログラム)の人であれば、食べても体重の変化がないと考えられる食事量から、さらに500キロカロリーほど食事・エネルギー摂取量を減らすか、もしくは500キロカロリーほど多く運動を行わないと、ダイエット後の体重を維持できない状況になっていたのです。こうした予想外の適応がダイエットによって起きることで、リバウンドしやすい状況になってしまうのです(単純計算になりますが、エネルギー消費量が1日あたり500キロカロリー減ると、たった14日間で脂肪組織1キログラム(7000キロカロリー)が増えることになります)。

このように、ダイエットによって基礎代謝量が予想以上に減ってしまう現象は「メタボリックアダプテーション」と呼ばれています。以上のように、過酷なダイエットを行うと、除脂肪組織の量的な変化と質的な変化が起こり、その結果、リバウンドしやすくなってしまうと考えられています。

【参考文献】
(1) Ganpule, A. A. et al., Eur. J. Clin. Nutr., 61 : 1256─1261, 2007.
(2) 「日本人の食事摂取基準(2025 年版)」策定検討会報告書:https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316585.pdf
(3) Forbes, G. B., Ann. N Y Acad. Sci., 904 : 359─365, 2000.
(4) Gallagher, D. et al., Am. J. Physiol., 275 : E249─E258, 1998.
(5) Johannsen, D. L., J. Clin. Endocrinol. Metab., 97 : 2489─2496, 2012.
(6) Fontana, L. et al., J. Clin. Endocrinol. Metab., 91 : 3232─3235, 2006.
(7) Fothergill, E. et al., Obesity( Silver Spring), 24: 1612─1619, 2016.

※本稿は、『よく聞く健康知識、どうなってるの?』(東京大学出版会)の一部を再編集したものです。

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