「見たいものしか見たくはない」という執着はどこまで

マスクを身につける生活が当たり前となってもう2年、先日、このマスクを外せない若者が急増しているという話を聞いた。彼らはマスクを「顔パンツ」と形容しているらしいのだが、マスクを取った時に相手が想像していたのとは違う顔にがっかりされたくないという気持ちからそんな事態になっているのだという。

その話を聞いた瞬間は大笑いをしたものの、すぐに腹が立ってきた。

こういう話のついでだから胸の内を隠さずに吐露すれば、昨今では浦辺粂子さんや原ひさ子さんのような、皺の貫禄や味わい深い年季を毅然と醸す女優さんがさっぱりいなくなってしまったことにも私は違和感を覚えている。自然の現象である老いですら、劣化だなんだと非難の対象にするほど、昨今の人間は不寛容になってしまったらしい。

いったいこの先どこまで人は、見たいものしか見たくはない、という執着を膨張させるつもりなのであろう。

仔ライオンの悲劇から目を逸らした私にあれこれ言えた筋合いはないが、見たくもない現実と向き合わずして人は成熟もしなければどんな苦境にも向き合うことはできなくなるだろう。それだけは間違いない。