1980年代前半、一人芝居『審判』を演じる加藤さん(写真提供◎加藤さん)

でもそれが次の飛躍に繋がり、後に生涯の代表作となる『審判』(バリー・コリンズ作)との運命の出会いを果たす。これが第三の転機だろうか。

――まさしくそうですね。一人になって、自分で好きな脚本をまず見つけて、「この台詞を言ってみたい」という芝居をやって、それで役者が輝けば、きっとお客さんもときめいてくれるだろう、という今も変わらない僕の姿勢がここで決まるんです。

そんなある日、新宿の紀伊國屋で『審判』って本が平積みになってたんですよ。帯に「江守徹近日上演」とあった。それで夢中になって立ち読みして、途中からボロボロ涙をこぼしながら読了。

すぐにその本を買って、そのまま喫茶店に入ると、泣きながらもう一度読みました。この芝居を上演するために加藤健一事務所を立ち上げることになる。まさに大きな転機ですね。

これは、第二次世界大戦でドイツ軍の捕虜になったロシアの将校7人が、修道院の地下に閉じこめられて60日間、置き去りにされるという芝居なんです。生き残るためには、一人ずつ仲間を食べていく以外、道はないわけです。それでくじ引きで一人ずつ殺していく。すごい話ですね。

生き残った二人のうち、一人は精神を病み、一人は正気だった。その正気のヴァホフ大尉が陪審員席……客席に向かって審判を問う一人芝居です。

それで、これをやろう、と決めたのはいいですが、とにかく2時間半、休憩なしのしゃべりっ放しの芝居ですからね。本1冊分を頭に叩きこんで、一気に喋る。まぁ、30歳でしたから1ヵ月で入りましたけど。

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