近年、より多様化しているコミュニケーション。その中でも「ご近所づきあい」と「SNS」には苦手意識を持つ方も多いのでは。そのことについて生物学と脳科学、心理学などの研究を手がける石川幹人・明治大学教授は「私たちが“ヒト”という生物である以上、対応できないところがあるのも事実。苦手なのもしょうがないと割り切ることが大事」と解説します。
ご近所づきあいが好まれていた時代
私は、六畳二間の公団住宅で育ちましたが、子どものいる家庭が多く、ご近所づきあいが濃密でした。ご近所をアポなしで勝手に訪問しても、喜んで迎え入れてくれました。
その頃は、そもそもご近所づきあいが必要だったのです。私はよく、醤油やソースを切らしたと言う母に、ご近所に「借り」に行かされました。夜「お醤油貸してくださーい」と訪問するのは、最初は気恥ずかしいのですが、すぐに慣れました。今ではコンビニがあるので「貸し借り」が必要なくなりました。コンビニは便利な反面、ご近所づきあいを奪っているのかもしれませんね。
ご近所づきあいは、狩猟採集時代の仲間を維持する心理によって、伝統的に守られてきました。
協力集団の仲間はたがいに持ちつ持たれつの依存関係です。仲間が困っているなどの事情がよくわかるからこそ、助け合えるのです。こうして、長屋のようなご近所づきあいは、何も取り繕う必要がない気軽な関係として好まれてきました。