恋愛・結婚で回収されない終わり方
しかしその後、笙野は自分の本心に気づき、付き合い始めたお見合い相手に別れを告げ、田中さんと話をしようとする。田中さんは田中さんで、ベリーダンスを踊っている店の店長で、かねてから思いを寄せていた三好(安田顕)にキスされそうになった時、笙野との思い出が蘇り、拒絶する。この流れ、このふたりが両想いになってハッピーエンド?と思わせるような展開だった。
しかし、笙野がお見合い相手に別れを告げ、話をしようと田中さんを探したときには田中さんはもういなくて、そのまま夢だったダンス留学にでかける。数年後、ダンス留学から帰ってきた田中さんが、朱里の親友の結婚式で朱里たちとベリーダンスをする場面で、物語は幕を閉じた。
数年ぶりの再会だったが、ダンスの伴奏でダラブッカを叩く笙野と、田中さんはそっと目を合わせただけ。朱里も小西のプロポーズを断り、結婚は保留になっていることが明かされ、注目のカップルの関係性に進展がない終わり方に、驚きがなかったと言えば嘘になる。
女性へのねじ曲がった考えを持つ笙野は、女性に対する数々の失礼過ぎる発言が話題となった。そんな笙野が、田中さんと関わっていく中で、どんどん人間的に成長し、価値観もアップデートされていった。笙野自身も、その変化は”田中さんがくれたもの”だと心から実感している。田中さんも、失礼な発言は多いが優しさもあり、たくさんの気づきをくれ、新しい世界を見せてくれる笙野にどんどん惹かれていく。そんなふたりを周囲も応援していくようになるし、初めは田中さんはおばさんだから抱けないと言った笙野が、年齢の壁を超えて田中さんを愛したなら、それは本物の愛で、ドラマティックな展開!と思ったのだ。
なぜ恋愛や結婚で回収されないラストを見てびっくりしたのか?を冷静に考えてみると、いかにいままでのドラマが、両想いになるor結婚するラストがめちゃくちゃ多かったかという事実に思い至った。両想いになるor結婚することこそが幸せの形で、大団円に欠かせない要素だと刷り込まれていたのだと思う。
『セクシー田中さん』は、恋愛・結婚で回収されない終わり方だった。しかし、田中さんが夢だったダンス留学を果たし、帰国して踊る姿は実にいきいきとしていて本当に美しかったし、朱里も田中さんとベリーダンスを踊れてとても幸せそうだった。背筋を伸ばして生きる、枠からはみ出してみる、自分の足で立って生きる。ふたりにとってベリーダンスとは、そんな理想の自分へ導いてくれるもの。そう思うと、この終わり方も腑に落ちる。最後まで『セクシー田中さん』らしい、そう思わされる終わり方だった。
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