本来は子どもの障害

虐待や不適切な養育はなくても、神経発達症(発達障害)、なかでも自閉スペクトラム症のある子どもは、愛着形成の時期に親への関心が乏しく、愛着に問題が生じやすいことがわかっています。

愛着障害の国際的な診断基準はWHO(世界保健機関)による国際疾病分類ICD -11における「反応性アタッチメント症」、DSM -5-TRにおける「反応性アタッチメント障害」に該当します。

どちらの基準でも愛着障害は子どもの障害として位置づけられており、大人に対する「愛着障害」という正式な疾病概念は存在しません。

不安症や情緒不安定の形であらわれる幼児期の愛着障害では、成長の過程で依存や自傷、摂食症、ひきこもりなどの症状があらわれることがあります。

さらに、その後の人生においても情緒不安定や不安症などの精神疾患にたびたび苦しめられることになります。

このように、幼児期の虐待や愛着障害によって引き起こされる大人の精神疾患について、WHOは2018年に初めて「複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)」という診断名を採用しました。

複雑性PTSDとは、通常のPTSDと同じような「著しい脅威または恐怖を与えるようなできごと」が、長期にわたる場合に起こるPTSDです。

通常のPTSDでは「フラッシュバックや悪夢などの再体験」「思い出させる状況や人の回避」「現在も脅威にさらされているという過剰な脅威感覚の高まり」などの症状が生じるとされています。

複雑性PTSDの診断基準では、これらの症状に加えて「感情の抑制がきかない」「自分のことを否定的に見る」「人間関係を保てず、人に親密感をもつことができない」などの症状の有無が問われます。

複雑性PTSDは幼少期の虐待に特化したカテゴリーではありませんが、発症の要因例には持続的なDVや反復的な身体的・性的虐待などが挙げられています。