「丑之助の日々の稽古事については、私が厳し過ぎると女房によく言われます。でもたまに、好きな料理をして家族サービスすることも」(撮影:岡本隆史)
演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が聞く。第37回は歌舞伎役者の尾上菊之助さん。今年5月に八代目尾上菊五郎を襲名する。俳優一家に生まれ、芸の道をきわめてきたが、その道のりにはさまざまな出会いがあった――。(撮影:岡本隆史)

前編よりつづく

嬉しそうな岳父の顔が……

第3の転機は、やはり一大イベント、八代目菊五郎襲名だろうか。

――いえ、倅の丑之助が生まれたこと、ですね。岳父(二代目中村吉右衛門)とは、以前はあまり一緒の舞台がなかったですけど、それでも岳父は中日(なかび)とかに共演者を招いて食事会をなさるので、たまに招かれるとそこに妻となる瓔子(吉右衛門四女)も来てたりして、知り合いました。

父と岳父は出る劇場が一緒というのが割合少なかったんですが、それでも『人情噺小判一両』とか『安政奇聞佃夜嵐(あんせいきぶんつくだのよあらし)』とか、私は大好きでしたね。

あと、『壽曽我対面(ことぶきそがのたいめん)』。岳父の(曽我)五郎が若々しくて力強い荒事で、父の十郎がおっとりとした江戸の和事で、素晴らしかった。私は化粧坂(けわいざか)少将で一緒の舞台に立たせてもらって、すごく勉強になりました。